| 読売的言説 |
5月31日付読売新聞社説で、社会保険庁の国民年金保険料不正免除問題を取り上げている。社説は冒頭で、全国26都府県の社会保険事務局が保険料の納付率向上を狙って、加入者本人の同意・申請がないまま、勝手に納付免除・猶予処理を行っていたことを「あきれる」と批判しているものの、文章の3分の2を割いて、村瀬清司社会保険庁長官を擁護、村瀬路線に基づく社会保険庁改革を後押ししているのが特徴だ。
他の全国紙も5月末から6月にかけて、この社保庁不正を社説で取り上げているが、その主張を見出しで見ると「あいた口がふさがらない」(5・24朝日)、「ノルマ×偽装=制度崩壊」(5・26毎日)、「年金の徴収体制を根本から立て直せ」(5・26日経)など、総じて、社保庁改革の現状に厳しい視線を注いでいる。ところが読売紙は見出しに「村瀬路線の否定は筋違いだ」との異質な主張を掲げ、村瀬長官の責任を問う構えを見せている民主党をやり玉にあげ、「その主張はおかしい」噛みつく。もはや、この社説の意図は明らかだろう。村瀬長官は04年7月に、初の民間出身長官として損保ジャパン副社長から転身した。民間の知恵活用をふれ回る小泉首相が社保庁改革の切り札として任命した人事で、当時、読売新聞は先頭に立って、民間人活用を声高に主張していた経緯がある。
しかし社保庁不正問題の実態が明らかになるにつれ、この事態は特定の地方事務所不良幹部が、目先の得点稼ぎのために不正を働いたというレベルを超えて、本体の社会保険事務局を含む組織ぐるみの不正行為だったことがはっきりした。しかもその実行は前任長官の時代から始まったことではなく、村瀬長官が着任した以降の行為に他ならない。昨年11月8日付で、納付率の2ポイント改善を数値目標に設定して、「いいわけは無用」などと督励した村瀬長官名の「緊急メッセージ」が全国に配布されている実態も明らかにされている。
そうであるが故に、「行きすぎた成果主義」(毎日)、「村瀬長官による未納率引き上げ号令の重圧が大きかった」(日経)、「(村瀬長官の)それが圧力になって組織ぐるみで不正に手を染めた疑いが強い」(朝日)と各紙社説は村瀬長官の責任の所在を指摘している。ただ読売紙だけは「社会保険事務局に向けて出した叱咤激励する号令文も、特に行きすぎた内容とは思えない」と意図的な擁護を繰り返す。
実はこの問題と平行して、金融庁が5月25日付で村瀬長官の出身母体である損保ジャパンに2週間の業務停止を命じている。この会社は昨年11月にも保険金不払い問題で業務改善命令を受けており、02−05年にかけて保険金の不払いや保険料の立て替え、違法販売など不正行為が全国で3万件弱あったことも分かっている。こうした不祥事の責任をとって、社長が辞任、副社長3人が辞職することが決まった。村瀬氏は04年6月に同社の専務から代表取締役副社長に昇格しており、社保庁長官への転身がなければ経営責任、管理責任を問われて辞任していたはずである。
ここでは民間人登用の是非は問わないが、村瀬氏が損保ジャパンの経営幹部として実務を取り仕切っていた時代に社員の不正販売や違法行為が全社的に広がり、それを見逃してきた事実は重い。特に経営手腕に優れているわけでもなく、未納率アップを叫び、形式的な成果主義を押しつけるだけの民間人などは掃いて捨てるほどいる。村瀬氏本人は国会で「法令を無視してやれという指示を出したつもりはない」とピンぼけな答弁をおこなっているが、自らが示した政策を現場段階にどのように浸透させるか、形式的で安易な方策に流れるリスクはないか、制度改革全体との調整をどう図るかなどをチェックすることがトップの役割のイロハであり、責任だ。民間人としも明らかに不適格者という他はない。
社説に話を戻す。新聞が読者から購読料を徴収してニュースや主張、評論を売り物にしている以上、政府広報とは自ずから異なり、しかも時間に忙しい一般読者の目では行き届かない事象にも目を向け、論を張る姿勢が欠かせない。半歩先を見据えた眼力と時々の政治権力から距離を置いた在野の立場が自立したメディアに求められる存在理由とするならば、読売紙の社会保険庁不正を取り上げた社説(主張)は明らかに一線を越えた小泉政権応援団のそれと目線は同じだ。読売紙だけの問題ではないが、90年代後半から急速に進む大手全国紙の紙面劣化は目を覆うものがある。
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